安定した職業、「安定」はデータで2つに割れる——満足の1位に来るのは4業界だけ

この記事の内容(10項目)

「派手じゃなくていい。長く続けられる場所がいい」 「でも『安定志向』は逃げだと言われそうで、口に出しにくい」 「実際、そういう仕事はどこにあるのか」

「安定した仕事」で検索すると、公務員と大企業の話になる。ところが「安定」という言葉が、途中で2つに割れます。


来月の自分の動きが、いまのうちに分かってほしい人

一日の終わりに「何も起きなかった」ことで安心する人は、この向き方が強く出ます。何かを達成した日より、何のトラブルも起きなかった日のほうが、いい一日だったと感じる。そういう人です。

予定が読めることに価値を置く人も同じ側です。来月の自分の動きが今のうちに分かる、来年も同じ場所にいられる見込みがある。この読みやすさ自体が報酬になっているという感覚がある。

そのうえで、実は2種類に分かれます。仕事を失わないことを心配している人と、体と時間が削られないことを心配している人です。しかも同じ職場では両方が揃わないことがあります。

一方、「去年より自分が変わっていない」ことが不安になる人は、この方向に来ると手応えを失います。守られていることと、積み上がっていることは別だからです。

分けないまま求人を見ると、片方だけが満たされる会社を「これは違う」と感じる理由が分からなくなります。


警察・消防・自衛隊で、2つの安定の重みは逆を向く

厚生労働省の職業データ job tag の11項目のうち、安定に関わるのは2つです。

  • 雇用や生活の安定性 — 仕事を失わないこと、生活の基盤が動かないこと
  • 労働安全衛生 — 体と環境が守られること

この2つは、その仕事をしている人が「何を満足の中心に置いているか」の数値です。 倒産しにくいか、リストラがあるか、年収が下がらないかとは、別の話です。

日常の会話では、この2つはまとめて「安定」と呼ばれます。ところが37業界で並べると、まったく別の動き方をします。雇用や生活の安定性は、11項目のうち2番目に大きく開く項目です。業界を変えれば、はっきり変わる。

労働安全衛生は、11項目のうち9番目。業界を変えても、あまり動かない。

いちばん分かりやすいのが、警察・消防・自衛隊です。雇用や生活の安定性は、37業界の1位。2位以下を大きく引き離しています。

ところが労働安全衛生は、37業界の36番目。さらに私生活との両立は、37業界すべての中で最も低い値です。

「安定した仕事」と一言で呼ぶと、この形が見えなくなります。公務員(行政)も似た形です。雇用や生活の安定性は2番目に高いのに、労働安全衛生は37業界の中ほどに沈みます。

逆側もあります。金融は労働安全衛生が37業界の1位ですが、雇用や生活の安定性は4番目。こちらは日々の環境の側が強い。

両方の項目で上位10に入るのは、37業界のうち4つだけです。 金融、管理部門(担当)、管理部門(課長級)、法律・会計。


安定が満足の1位なのは、37業界で4つだけ

安定の2項目のどちらかが満足の上位3に入る業界は、37業界のうち12。顔ぶれが揃っていません。公務員と金融の隣に、飲食と組立・生産ラインが並びます。さらに絞ると、安定が満足の1位に来るのは4業界だけ。

  • 警察・消防・自衛隊 — 雇用や生活の安定性が1位
  • 公務員(行政) — 雇用や生活の安定性が1位
  • 管理部門(課長級) — 雇用や生活の安定性が1位
  • 管理部門(担当) — 労働安全衛生が1位

残る8業界では、安定は2位か3位に付きます。 何かの後ろに来る、という形です。

反対側もはっきりしています。雇用や生活の安定性が最も低いのはクリエイティブで、同じ業界の専門性は37業界で6番目に高い。安定と積み上がりは、同じ業界で同時に最上位にはなりにくい。


3つの型があります

① 雇用が動かないことに、寄る型

警察・消防・自衛隊/公務員(行政)

雇用や生活の安定性が満足の1位に来ます。37業界で1番目と2番目の水準です。

そのかわり、日々の環境と私生活に置かれている重みは下がります。警察・消防・自衛隊の労働安全衛生は37業界の36番目、私生活との両立は最下位。トレードオフが数値にはっきり出ている、数少ない形です。

「仕事が無くなること」が一番の心配なら、この方向が合っています。「時間と体が削られること」が一番の心配なら、ここは合いません。警察・消防・自衛隊の業界平均は、その2項目を重く見ていません。

→ 警察・消防・自衛隊に向いてる人/公務員(行政)に向いてる人/警察・消防・自衛隊の転職エージェントの選び方/公務員(行政)の転職エージェントの選び方

② 2つの安定が、同時に高い型

金融/管理部門(担当)/管理部門(課長級)

雇用や生活の安定性と労働安全衛生が、どちらも37業界の上位10に入る業界です。金融は、専門性が1位に立ったうえで労働安全衛生が3位。積み上げる項目と、崩したくない項目が同居しています。

管理部門は、担当と課長級で1位が入れ替わります。担当は労働安全衛生が1位、課長級は雇用や生活の安定性が1位。役職が上がると、心配の中身がずれるようです。

なお、この2項目がどちらも上位10という条件では法律・会計も当てはまります。ただしこの業界は専門性・自律性・自己成長が上に立つため、安定は業界内の上位3に入りません。水準は高いのに、満足の中心ではない。

→ 金融に向いてる人/経理・人事・総務に向いてる人/管理職に向いてる人/金融の転職エージェントの選び方/経理・人事・総務の転職エージェントの選び方/管理職の転職エージェントの選び方

③ 専門性の次に、安定が来る型

社内SE/マーケティング

どちらも満足の1位は専門性で、そのすぐ後ろに安定が付きます。社内SEは、専門性の次が労働安全衛生。専門性が1位に来る22業界の中で、2番目が安定の項目なのは社内SEだけです。IT関連の中に安定の受け皿があると言えるのは、この並びが理由です。

ただし水準は高くありません。社内SEの労働安全衛生は37業界で24番目、マーケティングは21番目。業界の中では上位でも、37業界で並べると中ほどに沈みます。

「落ちないことを前提に、伸びたい」という形が、いちばん素直に数値へ出ているのがこの2業界だと思います。

→ 社内SEに向いてる人/マーケティングに向いてる人/社内SEの転職エージェントの選び方/マーケティングの転職エージェントの選び方


「安定志向」は、面談でこう言い換えられます

この言葉は、たいてい悪い意味で使われます。社内SEもマーケティングも、専門性を1位に置いたうえで安定が続きます。「伸びなくていい」ではなく、「落ちないことを前提に、伸びたい」という並びです。

  • ❌ 「安定した会社で働きたいです」
  • ⭕ 「止めないことに価値がある仕事で、専門性を積み上げたいです」

聞き方も変えられます。「安定していますか」ではなく、「雇用のほうですか、労働環境のほうですか」と分けて聞く。


「守られている」とは限りません

労働安全衛生や私生活との両立が上位3に入っているのは、良いことだけを意味しません。 この形がいちばんはっきり出るのは、販売・小売と一般事務・オフィスワークの2業界です。

この2業界だけ、上位3が「関係と生活が崩れないこと」で埋まります。販売・小売は 良好な対人関係/労働安全衛生/私生活との両立。一般事務・オフィスワークは 私生活との両立/労働安全衛生/良好な対人関係の順。達成感も専門性も、どちらも上位3に入りません。

同じ数値が、2通りに読めます。

  • 守られている — その環境が実際に整っていて、働く人がそこを評価している
  • 脅かされている — 崩れやすいからこそ、関心がそこに集まっている

この数値が示すのは、その業界で働く人の関心が、そこに集まっているという事実です。どちらの意味かは、求人票の勤務の形で確かめられます。

だから、この5業界(販売・小売、一般事務・オフィスワーク、飲食、食品製造、組立・生産ライン)は数値で決めきれません。順位ではなく、実際の運用を面談で確かめる側に置いてください。①や②で挙げた業界とは、扱いが違います。


近い業界——両方を重く見る4業界は、地続きではない

②で挙げた4業界のうち、金融と法律・会計は、6領域の距離が37業界のすべての組み合わせの中で最短です。興味の形だけを見ると、ほとんど区別がつきません。

ところが管理部門の2つは、この4業界の内側を向いていません。管理部門(担当)に最も近いのは一般事務・オフィスワーク、管理部門(課長級)に最も近いのは営業です。

この4業界は、条件で集まった4つであって、地続きの塊ではありません。 横に移るときは、金融と法律・会計のあいだか、管理部門とその隣にある事務・営業か。どちらの側にいるかで、興味の形が近い相手が変わります。距離は転職しやすさではありません。


まとめ

  • この2項目は、その仕事をしている人が安定を満足の中心に置いているかどうかの数値。実際の雇用の安定ではない
  • 「安定」はデータでは2項目に割れる。雇用や生活の安定性と、労働安全衛生
  • その2つは同じ方向を向かない。警察・消防・自衛隊は雇用の側が37業界で1位、環境の側は36番目、私生活との両立は最下位
  • 安定と積み上がりは、同居しにくい。クリエイティブは専門性が6番目に高く、雇用の安定は37番目

安定が欲しい、まではみんな同じです。雇用と環境の、どちらが先か。ここを分けないまま探すと、片方を取ったあとで、もう片方が削られていたことに気づきます。

仕事を失わないことが先なら①、体と時間が先なら②、伸びることが先なら③へ。


関連ページ


この記事の根拠

数値の内訳をひらく

同じ値には同じ順位を与え、次の順位へ飛ばしています(同順位)。番号のうしろの括弧は、同値の相手です。

雇用や生活の安定性——37業界の上位15と下位5

順業界雇用や生活の安定性
1警察・消防・自衛隊4.09
2公務員(行政)3.80
3医師・歯科医師3.69
4金融3.62
5研究職3.59
6管理部門(課長級)3.50
7管理部門(担当)3.42
8メーカー技術職3.38
9鉄道・航空・海運3.33
10法律・会計(弁護士・会計士)3.31
11医療・介護・保育3.29
12営業3.28
13IT・エンジニア3.25(教育/臨床検査・医療技術と同値)
13教育3.25(IT・エンジニア/臨床検査・医療技術と同値)
13臨床検査・医療技術3.25(IT・エンジニア/教育と同値)
…
33建設技能・職人2.89
34ホテル・観光・ブライダル2.87
35マスコミ・放送・出版2.68
36物流・ドライバー2.67
37クリエイティブ2.66

幅は 1.43(警察・消防・自衛隊 4.09 ↔ クリエイティブ 2.66)。11項目のうち2番目に大きい項目です。

労働安全衛生——37業界の上位10と下位5

順業界労働安全衛生
1金融3.67
2リハビリ・治療3.53(美容・理容と同値)
2美容・理容3.53(リハビリ・治療と同値)
4士業3.50
5管理部門(担当)3.49
6クリエイティブ3.43
7管理部門(課長級)3.42
8教育3.40
9ホテル・観光・ブライダル3.37(法律・会計と同値)
9法律・会計(弁護士・会計士)3.37(ホテル・観光・ブライダルと同値)
…
32建設技能・職人2.98
33農林水産2.88
34製造技能(金属加工)2.87(ビルメンテナンス・施設管理と同値)
34ビルメンテナンス・施設管理2.87(製造技能(金属加工)と同値)
36警察・消防・自衛隊2.83
37物流・ドライバー2.78

幅は 0.89(金融 3.67 ↔ 物流・ドライバー 2.78)。11項目のうち9番目で、雇用や生活の安定性より業界差が小さい項目です。

参考として、本文③の2業界は、社内SEが 3.17 で24番目、マーケティングが 3.24 で21番目です。「守られている」の節の5業界は、飲食 3.36(11番目)、販売・小売 3.35(12番目。建設・施工管理/研究職と同値)、一般事務・オフィスワーク 3.25(20番目)、食品製造 3.16(25番目)、組立・生産ライン 3.12(27番目)です。

2項目とも上位10に入る4業界

業界雇用や生活の安定性労働安全衛生業界内の上位3に安定が入るか
金融3.62(4番目)3.67(1番目)○ 労働安全衛生が3位
管理部門(担当)3.42(7番目)3.49(5番目)○ 労働安全衛生が1位・雇用安定が2位
管理部門(課長級)3.50(6番目)3.42(7番目)○ 雇用安定が1位・労働安全衛生が3位
法律・会計(弁護士・会計士)3.31(10番目)3.37(9番目)× 専門性 3.97/自律性 3.64/自己成長 3.60 が上位3

安定が上位3項目に入る12業界

業界上位3項目安定の位置
警察・消防・自衛隊雇用や生活の安定性 4.09/奉仕・社会貢献 3.72/専門性 3.631位
公務員(行政)雇用や生活の安定性 3.80/専門性 3.65/奉仕・社会貢献 3.501位
管理部門(課長級)雇用や生活の安定性 3.50/専門性 3.47/労働安全衛生 3.421位・3位
管理部門(担当)労働安全衛生 3.49/雇用や生活の安定性 3.42/専門性 3.411位・2位
社内SE専門性 3.34/労働安全衛生 3.17/達成感 3.06(良好な対人関係 3.06 と同値)2位
金融専門性 3.85/自己成長 3.71/労働安全衛生 3.673位
マーケティング専門性 3.45/自律性 3.32/労働安全衛生 3.243位
飲食良好な対人関係 3.44/達成感 3.43/労働安全衛生 3.363位
販売・小売良好な対人関係 3.40/労働安全衛生 3.35/私生活との両立 3.302位
組立・生産ライン私生活との両立 3.18/労働安全衛生 3.12/専門性 3.112位
食品製造私生活との両立 3.21/労働安全衛生 3.16/達成感 3.122位
一般事務・オフィスワーク私生活との両立 3.34/労働安全衛生 3.25/良好な対人関係 3.222位

社内SEは、専門性が満足の1位に来る22業界の中で、2番目が安定の項目である唯一の業界です。他の21業界は、2番目に達成感・自律性・自己成長・奉仕・社会貢献のいずれかが来ます。

参考——安定と積み上がりの対比

業界専門性雇用や生活の安定性
クリエイティブ4.02(6番目)2.66(37番目)
マスコミ・放送・出版4.05(4番目。リハビリ・治療と同値)2.68(35番目)
警察・消防・自衛隊3.63(21番目)4.09(1番目)

職業単位(分母は、仕事価値観の数値がある318職業)では、雇用や生活の安定性が最も低いのはイラストレーターの 2.13 です。

業界間の距離(6つの向きの値がどれだけ離れているか。小さいほど近い)

業界最も近い距離2番目距離
金融法律・会計(弁護士・会計士)0.227公務員(行政)0.469
法律・会計(弁護士・会計士)金融0.227公務員(行政)0.469
管理部門(担当)一般事務・オフィスワーク0.479食品製造0.521
管理部門(課長級)営業0.586金融0.654

金融 ↔ 法律・会計 0.227 は、37業界を総当たりで比べたときで最短です。一方、管理部門の2業界は、最も近い相手が「2項目とも上位10」の4業界の外にあります。

このデータに含まれていないもの

倒産リスク・リストラの有無・年収・業界の成長性・企業ごとの実態は、job tag に入っていません。

「労働安全衛生が上位に来る」が、守られているのか脅かされているのかも、この数値では判定できません。 判定できるのは、その業界で働く人の関心がそこに集まっているという事実までです。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」簡易版数値系ダウンロードデータ ver.7.00(最終更新 2026年3月17日/制作・著作:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)