「自分はエンジニアに向いているんだろうか」 「文系だし、数学も得意じゃない」 「もう何年もやっているのに、向いている実感がない」
調べるほど「向いている人の特徴」が書いてあって、そのどれにも半分しか当てはまらない。 そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
半分しか当てはまらないのは、当然です。 「エンジニア」という言葉が指しているものが、ひとつではないからです。
「IT業界に向いているか」という問いが、成立していません
厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「job tag」には、約500の職業について、実際にその仕事をしている人がどんな方向に興味を持っているかの調査結果が入っています。
IT・エンジニアを構成する9職種を並べると、業界の中で大きく割れました。
調べて突き止めることへの向き方を見ると、いちばん高いデータサイエンティストと、いちばん低いプロジェクトマネージャで、0.99 の差があります。
この 0.99 という数字が、この記事でいちばん重要です。
同じデータで17業界の平均を並べたとき、この領域の幅は 0.93 しかありません(メーカー技術職 ↔ 物流・ドライバー 2.61)。
つまり——IT業界の中の差のほうが、業界どうしの差より大きい。
だから「IT業界に向いているか」を先に決めようとすると、答えが出ません。決めるべきなのは、業界ではなく型のほうです。
5つの型に分かれます
① 突き止めたい人
データサイエンティストとプログラマーが、この型の中心です。
調べて突き止めることへの向き方が業界内で最も高く(/)、人と関わる向き方は逆に低い(/)。
分からないことがあると、分かるまで手が止まらない人。 周りに人がいない時間が長くても平気な人。ここが噛み合います。
「調べ始めると時間を忘れる」という感覚を、仕事中に何度も味わいたいなら、この型です。
② 触りながら突き止めたい人
組込み・IoTのエンジニアが、いちばんはっきりした形をしています。
手を動かすこと(3.74)も、突き止めること(3.68)も、どちらも業界の上位にあります。
画面の中だけでは満足できない人。 実物が動くかどうかで確かめたい人です。
この型は、IT業界の外にも同じ形があります。 メーカー技術職(手を動かす3.61・突き止める3.54)が、17業界の全組み合わせでITといちばん近い位置にいます。
③ 動かしたい人
プロジェクトマネージャが、この型です。
突き止めることへの向き方は業界内で最も低く、代わりに人と関わることと人を動かすことが高い。
技術そのものより、物事が前に進むことに手応えを感じる人。
満足の中心も違います。 他のIT職種の多くが「専門性が積み上がること」を1位に置くのに対し、PMは「達成感」が1位(3.75)で、2位に「自律性」(3.69)が来ます。
「技術から離れるのは後退だ」と感じる必要はありません。 求められている向き方が、もともと違います。
④ つなぎたい人
基盤システムのエンジニアが、この型です。
人と関わることも、人を動かすことも、9職種の中で最も高い。 そのうえで、突き止めることも中位以上にあります。
技術も分かるし、人とも話せる。 その両方が要る場所です。
満足の中心に「雇用や生活の安定性」(3.33)が入るのも、IT職種では珍しい形です。
⑤ 作りたい人
スマホアプリの開発が、この型に最も近い形をしています。
表現することへの向き方(2.97)が9職種で最も高く、逆に人と関わる向き方(2.79)は最も低い。
何を作るかを自分で決めたい人。 決められた仕様を実装するより、形そのものに関わりたい人です。
この型は、IT業界の外に強い引力があります。 クリエイティブ職の表現への向き方は 3.93 で、17業界で最も高い水準です。
自分がどれに近いか、確かめる3つの問い
エージェントに聞く質問ではありません。自分に向ける問いです。
問い1:うまくいった日を思い出したとき、そこに人はいましたか
一人で集中していた日を思い出すなら①②⑤、誰かと話して物事が動いた日なら③④です。
問い2:分からないことに出会ったとき、最初にどうしますか
自分で調べ始めるなら①②、詳しい人に聞きに行くなら③④。どちらが優れているという話ではありません。
問い3:「これは自分が作った」と言いたいですか
言いたいなら⑤の要素が強い。動けばいいと思えるなら、そこは動機の中心ではありません。
「向いていない気がする」と思ったときに、見るところ
向いていないのが業界なのか、いまの職種なのか、いまの職場なのかで、やることが変わります。
- 業界が合わない — 6つの領域のうち、手を動かすことと突き止めることがどちらも動機に無いなら、その可能性があります
- 職種が合わない — 業界内の幅が 0.99 あるので、型を変えるだけで解決することがあります
- 職場が合わない — 数値では判定できません。同じ職種名でも、受託と自社開発で日々の中身は別物です
この3つを分けないまま「向いていない」と判断すると、必要のない転職をすることになります。
まとめ
- 「IT業界に向いているか」という問いは成立しない。 業界内の差(0.99)が、17業界間の差(0.93)より大きい
- 突き止めたい人(データサイエンティスト・プログラマー)——一人の時間が長い
- 触りながら突き止めたい人(組込み・IoT)——実物で確かめたい
- 動かしたい人(PM)——突き止める向き方は業界内で最も低い。満足の1位は達成感
- つなぎたい人(基盤システム)——人と関わる向き方が業界内で最も高い
- 作りたい人(スマホアプリ)——表現への向き方が最も高く、人と関わる向き方は最も低い
決めるべきなのは、業界に向いているかではありません。自分がどの型に近いかです。
関連ページ
- エンジニアの転職エージェントの選び方——型が決まったあとの、エージェントの選び方
- エンジニアは「やめとけ」と言われる理由——言われていることが、どこまで数値と合うか
- 業界別の向き・不向き一覧——17業界を1枚の表で
この記事の根拠
数値が高いほど、その方向への興味が強いことを示します。
IT・エンジニアの職業別(職業興味・RIASEC)
| 職業 | 現実的 | 研究的 | 芸術的 | 社会的 | 企業的 | 慣習的 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| データサイエンティスト | 3.36 | 3.85 | 2.72 | 3.03 | 3.21 | 2.72 |
| プログラマー | 3.75 | 3.76 | 2.73 | 2.90 | 2.88 | 3.12 |
| システムエンジニア(組込み、IoT) | 3.74 | 3.68 | 2.86 | 3.36 | 3.14 | 3.05 |
| ソフトウェア開発(パッケージソフト) | 3.31 | 3.49 | 2.64 | 3.00 | 3.15 | 2.85 |
| ソフトウェア開発(スマホアプリ) | 3.32 | 3.40 | 2.97 | 2.79 | 3.03 | 2.61 |
| システムエンジニア(基盤システム) | 3.45 | 3.35 | 2.76 | 3.48 | 3.41 | 3.12 |
| システムエンジニア(Webサービス開発) | 3.24 | 3.24 | 2.82 | 3.13 | 3.10 | 3.00 |
| システムエンジニア(受託開発) | 3.29 | 3.15 | 2.71 | 3.24 | 3.19 | 2.98 |
| プロジェクトマネージャ(IT) | 3.57 | 2.86 | 2.52 | 3.43 | 3.39 | 2.91 |
太字はIT・エンジニア9職種の中での最大・最小であって、17業界での順位ではありません。
比較に使った17業界の幅:研究的は メーカー技術職 3.54 ←→ 物流・ドライバー 2.61 で 0.93。IT9職種の幅 0.99 はこれより大きい。
仕事価値観:9職種のうち7職種で1位が「専門性」。外れるのはPM(達成感3.75/自律性3.69/自己成長3.66)と、運用・管理およびヘルプデスク(社内SE側に収録)。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」簡易版数値系ダウンロードデータ ver.7.00(最終更新 2026年2月10日/制作・著作:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
