警察・消防・自衛隊は「やめとけ」と言われる——どこまで本当か

「安定していると言われて入ったのに、続けるなという話ばかり出てくる」 「この経験は外で通用しない、と何度も言われた」 「辞めたほうがいいのか、辞めたら何も残らないのか」

「やめとけ」の理由は読むたびに増えるのに、自分に当てはまるのかは分からない。 そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

「やめとけ」は、雑な言葉です。 中身が5つくらい混ざっていて、そのうち2つは、このデータでは答えられません。

先に、分けます。


最初に——このデータで答えられないこと

この記事が使うのは、厚生労働省の「job tag」に入っている職業別の調査データです。 実際にその仕事をしている人が、どんな方向に興味を持っているかと、何を大事にしているかが入っています。

逆にいうと、次のことは測っていません。

  • 実際にどれくらい危険か、事故がどれくらい起きるか
  • 階級や、組織の中の上下関係
  • 勤務時間・当直や待機の量・年収
  • 採用試験の内容や、どれくらい難しいか

「警察はやめとけ」「自衛隊はやめとけ」の理由の多くは、この4つです。 そこは答えられないと、先に書いておきます。

そのうえで、答えられる3つが、この仕事を選んだ理由そのものに関わります。


「やめとけ」の中身は、だいたい5つです

#言われていること数値との関係
危険な仕事だ答えられない
上下関係が厳しい答えられない
私生活が無い重視度としてなら、当たっています
潰しが効かない距離の側からは、当たりません
どうせ警察も消防も自衛隊も同じ半分は当たっています。ここが他の業界と違う

③ 「私生活が無い」——重視度としてなら、当たっています

先に線を引きます。 このデータは、実際の勤務時間も、当直の量も測っていません。 測れているのは、その仕事をしている人が、私生活との両立をどれだけ重く見ているかだけです。混ぜないでください。

そのうえで見ると、警察・消防・自衛隊は 2.82 で、37業界の中で最も低い数値でした。

そして、ここには続きがあります。

私生活との両立は、11項目の中で業界どうしの差が最も小さい項目です。最高と最低の幅は 0.70 しかありません。 他の項目——たとえば専門性は 1.66、雇用や生活の安定性は 1.43 開きます。

つまり、そもそも業界を変えても動きにくい項目です。 その、いちばん差がつきにくい項目で、この業界が最下位にいます。

もうひとつ。労働安全衛生は 2.83 で、37業界の下から2番目でした。下にいるのは物流・ドライバーだけです。

繰り返しますが、これは実際の危険度ではありません。 ただ、この2項目を上に置いている人が、この業界には集まっていない——それは数値のとおりです。


④ 「潰しが効かない」——距離の側からは、当たりません

このサイトでは、37業界それぞれの興味の形を6つの領域の数値にして、業界どうしがどれだけ離れているかを距離で出しています。

警察・消防・自衛隊に最も近い業界は鉄道・航空・海運で、距離は 0.41 でした。次が公務員(行政)で 0.49 です。

比べる相手を置くと、意味がはっきりします。 37業界の中で最も孤立しているのは研究職とコンサルで、最も近い相手までの距離が 0.68 あります。この業界は、そこまで離れていません。

1番目に来たのが役所ではなく、乗り物を動かす業界だったところは、見ておいていい点です。 人の安全がかかった状態で、決まった手順を回す——興味の形の側から見ると、共通しているのはそこでした。

「潰しが効かない」と言われるとき、多くは求人や経歴の話をしています。 それは測っていません。ただ、興味の形の側から見ると、地続きの隣が無い業界ではありません。


⑤ 「どれも同じ」——半分は当たっています

これが、この記事でいちばん重要なところです。

このサイトの記事では、たいてい「業界名でひとくくりにするのは違う」と書いています。 この業界だけは、そう書けません。

収録している8職種の割れ方を、37業界の割れ方と比べます。

6つの領域すべてで、業界の中の幅のほうが小さくなりました。 いちばんそろうのは決まった手順を回す向き方で、業界の中の幅 0.44 に対して、37業界の平均どうしの幅は 0.89半分ほどしかありません。

「警察も消防も自衛隊も、興味の形としては同じ帯にいる」——ここは当たっています。

当たっていないのは、残る半分です。

1つだけ、はっきり割れる領域があります。調べて突き止めることへの向き方で、業界の中の幅は 1.34 でした。最も高いのは麻薬取締官、最も低いのは刑務官です。

同じ業界の中で、突き止めることが仕事の中心にある職種と、決まっている枠を正確に回す職種が、両方入っています。

「向いていなかった」と感じたとき、それがこの業界そのものへの向き不向きなのか、その1領域なのかは、分けて考えられます。 8職種でどう割れるかは、警察・消防・自衛隊に向いてる人にまとめました。


ついでに——「安定しか無い」について

もうひとつ、よく言われることに触れておきます。

雇用や生活の安定性は 4.09 で、37業界の中で最も高い数値でした。「安定を重く見ている人が集まっている」は、数値のとおりです。

ただし、上位はそれだけではありません。

2位は奉仕・社会貢献 3.72 で、37業界の3番目に入ります。「安定しか見ていない」という言い方は、この2位を落としています。

一方、3位の専門性 3.63 は、37業界では21番目——ほぼ真ん中でした。業界の中では3位なのに、業界どうしで並べると平均的な位置にいます。

「安定しか無い」ではなく、「安定と貢献が上に来て、積み上がる側が真ん中に落ちる」——そう言ったほうが数値には近い形です。


「やめとけ」が当たる人と、当たらない人

当たりやすいのは、こういう人です。

  • 私生活の側を、自分で動かしたい人。 私生活との両立 2.82 は37業界で最低で、しかも業界を変えても動きにくい項目です
  • 形の外に出て、自分の表現として何かを作りたい人。 表現することへの向き方 2.18 は37業界で最低でした
  • 業界名ではなく、職種で自分の居場所を作りたい人。 この業界は、6つの領域すべてが業界名の側で決まってしまいます

当たらないのは、こういう人です。

  • 自分の仕事が、直接誰かの安全につながっていることに意味を感じる人。 奉仕・社会貢献 3.72 は37業界で3番目です
  • 決められた手順を、決められたとおりに回すことが苦にならない人
  • 「調べて突き止める」の比重が合わなかっただけの人。 それは業界ではなく、8職種のどれを選ぶかの話です

「やめとけ」と言っている人が間違っているわけではありません。 その人にとっては本当だった、というだけです。


まとめ

  • このデータでは、実際の危険度・階級・勤務時間・年収・採用試験は答えられない
  • 「私生活が無い」は重視度としてなら当たっている。 2.82 は37業界で最低で、この項目の業界どうしの幅は 0.70 しかない
  • 「潰しが効かない」は距離の側からは当たらない。 最も近い業界まで 0.41、次が 0.49
  • 「どれも同じ」は半分当たっている。 6領域すべてで業界の中の幅が業界どうしの幅より小さい
  • 残る半分は、調べて突き止める向き方の 1.34。 ここだけは職種で決まる
  • 「安定しか無い」は正確ではない。 2位の奉仕・社会貢献 3.72 は37業界で3番目

決めるべきなのは、「やめとけ」が正しいかどうかではありません。合っていないのがこの業界なのか、8職種のうち選んだ1つなのかです。


関連ページ


この記事の根拠

数値が高いほど、その方向への興味が強いことを示します。

業界平均(職業興味・RIASEC)

業界現実的研究的芸術的社会的企業的慣習的
警察・消防・自衛隊3.433.042.183.753.133.47
鉄道・航空・海運3.502.982.433.473.013.48
公務員(行政)3.113.242.443.583.103.46
臨床検査・医療技術3.763.362.593.782.793.47
士業2.603.262.263.863.493.50
ビルメンテナンス・施設管理3.372.812.303.302.823.37
建設・施工管理3.583.132.763.463.363.14
物流・ドライバー3.182.612.402.872.543.20

太字はこの表の中での最小値で、芸術的 2.18・研究的 2.61・企業的 2.54 は37業界でも最低です。

37業界での位置(警察・消防・自衛隊):芸術的 2.18 は37業界で最低(2番目に低いのは 士業 2.26)。慣習的 3.47 は4番目(臨床検査・医療技術と同値)。現実的 3.43 は16番目。社会的 3.75 は12番目。企業的 3.13 は17番目。研究的 3.04 は22番目。

仕事価値観(11項目・警察・消防・自衛隊)

項目37業界での位置
雇用や生活の安定性4.091番目
奉仕・社会貢献3.723番目
専門性3.6321番目
自己成長3.5416番目
達成感3.3822番目
自律性3.2527番目
良好な対人関係3.2426番目
社会的認知3.237番目(公務員(行政)と同値)
報酬3.236番目
労働安全衛生2.83下から2番目
私生活との両立2.8237番目(最低)

これは「実際にどうか」ではなく「その仕事をしている人が何を重く見ているか」の数値です。 実際の危険度・勤務時間・年収は、このデータには入っていません。

11項目それぞれの、37業界での幅:専門性 1.66(1位)/雇用や生活の安定性 1.43(2位)/社会的認知 1.42(3位)/報酬 1.35(4位)/奉仕・社会貢献 1.30(5位)/自己成長 1.23(6位)/達成感 1.21(7位)/自律性 1.05(8位)/労働安全衛生 0.89(9位)/良好な対人関係 0.81(10位)/私生活との両立 0.70(11位=最小)

私生活との両立の下位3業界警察・消防・自衛隊 2.82/建設・施工管理 2.89(マスコミ・放送・出版 2.89 と同値)。最高は 士業 3.52 です。

労働安全衛生の下位3業界:物流・ドライバー 2.78/警察・消防・自衛隊 2.83/製造技能(金属加工)2.87(ビルメンテナンス・施設管理 2.87 と同値)。最高は 金融 3.67 です。

雇用や生活の安定性の上位5業界警察・消防・自衛隊 4.09/公務員(行政)3.80/医師・歯科医師 3.69/金融 3.62/研究職 3.59。

業界内の幅:警察・消防・自衛隊の中で最も開くのは、調べて突き止める向き方の 1.34(麻薬取締官 3.75 ←→ 刑務官 2.41)。最も揃うのは 決まった手順を回す向き方の 0.44(航空自衛官 3.68 ←→ 消防官 3.24)。6領域とも、業界の中の幅が37業界の平均どうしの幅より小さくなっています。

比較に使った37業界の幅:手を動かすことは 1.17/調べて突き止めることは 1.53/表現することは 1.75/人と関わることは 1.55/説得し動かすことは 1.24/手順を回すことは 0.89。職種ごとの内訳は 警察・消防・自衛隊に向いてる人 にあります。

業界間の距離:6領域の値をそのままユークリッド距離で算出したものです。上の表の数値から再現できます。 警察・消防・自衛隊は 鉄道・航空・海運 0.405、公務員(行政)0.490。37業界666ペアの中で「最も近い相手までの距離」が最大なのは 研究職 0.676 と コンサル 0.676(3位は リハビリ・治療 0.660、4位は 臨床検査・医療技術 0.618、5位は 士業 0.610)。

警察・消防・自衛隊に含めた職業:警察官(都道府県警察)/海上保安官/麻薬取締官/刑務官/陸上自衛官/海上自衛官/航空自衛官/消防官の8職業の平均です。国家公務員(行政事務)・地方公務員(行政事務)・税務事務官・国際公務員・社会教育主事・労働基準監督官は、公務員(行政)のほうに分けており、こちらでは数えていません。

このデータに含まれていないもの:年収・労働時間・当直や待機の量・求人数・採用試験の内容や難易度・倍率・階級や職階・実際の危険度や事故率・勤務地や異動の仕組み。本文で「答えられない」「測っていない」と書いた項目は、すべてこれに当たります。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」簡易版数値系ダウンロードデータ ver.7.00(最終更新 2026年2月10日/制作・著作:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)