一般事務は「やめとけ」と言われる——どこまで本当か

「事務は楽そうでいいね、と言われた」 「でも別の人には、キャリアにならないからやめとけと言われた」 「そして、そもそも倍率が高くて入れないぞ、とも」

言われることがバラバラで、どれが本当か分からない。 そんな状態の人も多いのではないでしょうか。

「やめとけ」は、雑な言葉です。 中身が5つくらい混ざっていて、そのうち3つは、このデータでは答えられません。

そして残る1つは、残念ながらデータと合っています。

先に、分けます。


最初に——このデータで答えられないこと

この記事が使うのは、厚生労働省の「job tag」に入っている職業別の調査データです。 実際にその仕事をしている人が、どんな方向に興味を持っているかと、何を大事にしているかが入っています。

逆にいうと、次のことは測っていません。

  • 収入がいくらか
  • 正社員か派遣かなど、雇用の形
  • 求人がどれくらいあるか。応募倍率がどれくらいか
  • これから仕事がどう変わるか
  • どんなソフトが使えれば有利か

「一般事務はやめとけ」の理由の多くは、この5つに関するものです。 そこは答えられないと、先に書いておきます。

答えられないことを「答えられない」と書かないと、残りの話も信用できなくなるからです。


「やめとけ」の中身は、だいたい5つです

#言われていること数値との関係
給料が上がらない答えられない
仕事がなくなる。置き換えられる答えられない
キャリアにならない。何も積み上がらないデータと合っている
誰にでもできる仕事半分違う
倍率が高くて、そもそも入れない答えられない

答えられるのは③と④だけです。


③ 「何も積み上がらない」——これは、データと合っています

job tag には、その仕事をしている人が何を大事にしているかのデータも入っています。11の項目があります。

そのうち4つを、ここでは「積み上がる系」と呼びます。 達成感・自律性・専門性・自己成長の4項目です。働いた結果として本人の側に残り、転職しても持ち出せるものという共通点があります。

この4つが満足の上位3に1つも入らないのは、比較した37業界の中で2業界だけでした。

一般事務・オフィスワークが、そのうちの1つです。(もう1つは販売・小売で、販売・小売は「やめとけ」と言われる理由に書いています)

数値でも同じ形が出ます。

「専門性が積み上がること」は 2.91 で、37業界の下から2番目。 達成感も、自己成長も、同じく下から2番目にあります。

つまり——「キャリアにならない」という言い方は、この項目に関しては当たっています。

ここは、正直に書いておきます。 データが否定していないものを、否定したように書くことはしません。

ただし、意味は限定されます。 これは「この仕事をしている人が、何を仕事選びの軸に置いているか」の数値であって、「この仕事をすると能力が下がる」という話ではありません。


④ 「誰にでもできる」——半分違います

一般事務・オフィスワークの「決まった手順を正確に回す向き方」は 3.40。 比較した37業界の中で上から7番目でした。

上にいるのは、管理部門の課長級・士業・鉄道・警察・臨床検査・公務員の6業界だけです。

この並びを見ると、「正確に回すこと」が、この業界の中心にある能力だと分かります。

「誰にでもできる」と言うとき、多くの場合は「特別な資格が要らない」という意味で使われています。 そこは測っていないので答えられません。

答えられるのは、その仕事をしている人の向き方だけです。 そして、その向き方は、37業界の中で上から7番目に強く出ています。

「手順を正確に回すことが得意ではない人」にとって、この仕事は簡単ではありません。 数値の側から言えるのは、そこまでです。


じゃあ、この業界では何が満たされているのか

③で見たとおり、積み上がる側の4項目は上位3に入りません。

上位3に入っているのは、私生活との両立 3.34、労働安全衛生 3.25、良好な対人関係 3.22 です。

3つとも、仕事の中身ではありません。 働く条件と、まわりの環境の話です。

ここで、もう一段だけ見ておく価値があります。

この3つが「37業界の中で高いのか」を確かめると、そうではありませんでした。

  • 私生活との両立 3.34 は、37業界で上から11番目
  • 労働安全衛生 3.25 は、上から20番目
  • 良好な対人関係 3.22 は、下から11番目

つまり——上位3に入っているのは、この3つが高いからではありません。 他の項目が全部下がった結果、相対的に残っただけです。

同じ形をしている販売・小売とは、ここが違います。 あちらは上位3の3項目が、どれも37業界の上から13番目あたりに並んでいます。「対人関係が実際に高いから、上位に来ている」という構造です。

一般事務は、そうではありません。

だから、「働き方がいいから事務にする」という選び方をするときは、1つ確かめる必要があります。 業界としての数値が高いのではなく、比べる相手を業界の中に限ったときに上位なだけだからです。

職場ごとの差が、そのまま体感の差になります。 業界名で選ぶのではなく、職場の側を見るしかない——数値の形が言っているのは、そこです。


「やめとけ」が当たる人と、当たらない人

当たりやすいのは、こういう人です。

  • 専門性を積み上げて、それを次の仕事に持ち出したい人。 専門性 2.91 は37業界で下から2番目で、職場を変えても大きくは動きません
  • 調べて突き止めることに面白さを感じる人。 調べて突き止める向き方 2.69 は37業界で下から2番目です
  • 仕事の中身そのもので満たされたい人。 満足の上位3が、すべて仕事の外側の条件になっています

当たらないのは、こういう人です。

  • 決まった手順を、決まったとおりに回せる人
  • 抜けや漏れが気持ち悪いと感じ、自分で気づける人
  • 仕事の外側に自分の時間があることを、優先したい人

「やめとけ」と言っている人が間違っているわけではありません。 その人にとっては本当だった、というだけです。

そして——この業界に関しては、「やめとけ」の一部が当たっていることを認めたうえで選ぶほうが、あとで揺れません。


まとめ

  • このデータでは、収入・雇用の形・応募倍率・将来の仕事の変化は答えられない
  • 「何も積み上がらない」はデータと合っている。 達成感・自律性・専門性・自己成長の4項目が満足の上位3に1つも入らないのは、37業界で2業界だけ。そのうちの1つがこの業界
  • 専門性 2.91 は37業界で下から2番目
  • 「誰にでもできる」は半分違う。 決まった手順を正確に回す向き方 3.40 は37業界で7番目
  • 上位3は私生活 3.34・労働安全衛生 3.25・対人関係 3.22 だが、37業界で見ると11番目・20番目・下から11番目。 高いから上位なのではなく、他が下がって残っただけ

決めるべきなのは、「やめとけ」が正しいかどうかではありません。自分が求めているのが、積み上がることなのか、働き方なのかです。


関連ページ


この記事の根拠

数値が高いほど、その方向への興味が強いことを示します。

業界平均(職業興味・RIASEC)

業界現実的研究的芸術的社会的企業的慣習的
一般事務・オフィスワーク3.022.692.483.352.923.40
販売・小売3.282.772.843.983.243.26
管理部門(担当)3.092.982.473.133.223.36
管理部門(課長級)3.253.122.323.733.783.58
士業2.603.262.263.863.493.50
鉄道・航空・海運3.502.982.433.473.013.48
警察・消防・自衛隊3.433.042.183.753.133.47
臨床検査・医療技術3.763.362.593.782.793.47
公務員(行政)3.113.242.443.583.103.46
ビルメンテナンス・施設管理3.372.812.303.302.823.37
物流・ドライバー3.182.612.402.872.543.20
研究職3.704.142.683.283.203.01
コンサル2.893.192.653.493.632.69

太字は、比較した37業界の中での最高・最低です。

慣習的の順位(分母は37業界):最も高いのは管理部門(課長級)3.58、2番目が士業 3.50、3番目が鉄道・航空・海運 3.48、4番目が警察・消防・自衛隊 3.47、5番目が臨床検査・医療技術 3.47、6番目が公務員(行政)3.46、7番目が一般事務・オフィスワーク 3.40。最も低いのはコンサル 2.69 で、幅は 0.89

研究的の順位(分母は37業界・下から):物流・ドライバー 2.61 / 一般事務・オフィスワーク 2.69(下から2番目) / 販売・小売 2.77 / ビルメンテナンス・施設管理 2.81 / ホテル・観光・ブライダル 2.82。最も高いのは研究職 4.14 で、幅は 1.53

「積み上がる系」の定義:本サイトでは達成感・自律性・専門性・自己成長の4項目を指します。社会的認知は含めません(外からの評価であり、本人の側に残るものではないため)。この4項目が満足の上位3に1つも入らないのは、37業界で販売・小売と一般事務・オフィスワークの2業界だけです。物流・ドライバーとビルメンテナンス・施設管理は、自律性が上位3に入るため該当しません。

仕事価値観の比較(上位3項目と、その37業界での順位)

業界1位2位3位
一般事務・オフィスワーク私生活との両立 3.34(11番目労働安全 3.25(20番目対人関係 3.22(下から11番目
販売・小売対人関係 3.40(13番目)労働安全 3.35(13番目)私生活との両立 3.30(13番目)

同じ形でも、順位の並びが違うというのが本文の主張です。分母はどちらも37業界。

仕事価値観(一般事務・オフィスワーク・11項目)

項目37業界での位置
私生活との両立3.34上から10番目(研究職と同値)
労働安全3.25上から20番目
良好な対人関係3.22下から11番目
雇用や生活の安定性3.10下から16番目
自律性(自分の裁量で決められること)2.96下から2番目(組立・生産ラインと同値)
達成感(やり遂げた手応え)2.94下から2番目
自己成長2.92下から2番目
専門性が積み上がること2.91下から2番目
奉仕貢献2.78下から6番目
報酬2.70下から11番目
社会的認知2.58下から3番目

太字が「積み上がる系」の4項目です。4つとも、業界の中では下位に沈んでいます。

専門性の順位(分母は37業界・下から):物流・ドライバー 2.56 / 一般事務・オフィスワーク 2.91 / 食品製造 3.04 / ビルメンテナンス・施設管理 3.05 / 組立・生産ライン 3.11。

達成感の順位(分母は37業界・下から):物流・ドライバー 2.79 / 一般事務・オフィスワーク 2.94 / ビルメンテナンス・施設管理 3.02 / 社内SE 3.06。

自己成長の順位(分母は37業界・下から):物流・ドライバー 2.67 / 一般事務・オフィスワーク 2.92 / ビルメンテナンス・施設管理 2.95 / 食品製造 3.00。

この11項目は「その仕事をしている人が、何をどれだけ重視しているか」の数値です。報酬 2.70 は実際の給与額ではありません。 私生活との両立 3.34 も、実際の休日数ではありません。 専門性 2.91 が低いことは、「この仕事をすると能力が下がる」という意味ではありません。

一般事務・オフィスワークに含めた職業:コールセンターオペレーター/秘書/受付事務/一般事務/データ入力/営業事務/生産・工程管理事務/貿易事務/通信販売受付事務/出荷・受荷事務/郵便局郵便窓口業務の11職業の平均です。

販売・小売に含めた職業:デパート店員/スーパー店長/スーパー店員/電器店店員/書店員/メガネ販売/スポーツ用品販売/ホームセンター店員/衣料品販売/コンビニエンスストア店員の10職業の平均です。

このデータに含まれていないもの:収入・雇用形態・労働時間・休日数・求人数・応募倍率・年齢構成・必要なソフトの操作技能・自動化や業務システムの導入状況・これから仕事がどう変わるか。本文で「答えられない」と書いた項目は、すべてこれに当たります。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」簡易版数値系ダウンロードデータ ver.7.00(最終更新 2026年2月10日/制作・著作:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)