マスコミは「やめとけ」と言われる——どこまで本当か

「入る前も、入ってからも、やめとけと言われ続けている」 「好きな仕事ではある。ただ、この働き方が10年続くとは思えない」 「業界の外に出たら、何ができる人として見られるのか分からない」

仕事そのものは嫌いではないのに、続ける前提が置けない。 そんな状態の人も多いのではないでしょうか。

「やめとけ」は、雑な言葉です。 中身が5つくらい混ざっていて、そのうち1つは、はっきり数値が出ます。

先に、分けます。


最初に——このデータで答えられないこと

この記事が使うのは、厚生労働省の「job tag」に入っている職業別の調査データです。 実際にその仕事をしている人が、どんな方向に興味を持っているかと、何を大事にしているかが入っています。

逆にいうと、次のことは測っていません。

  • 給与がいくらか
  • 労働時間や拘束がどれくらいか
  • 業界の規模が縮んでいるのか、広がっているのか
  • 求人が増えているのか、減っているのか

この4つは答えられないと、先に書いておきます。「斜陽だから」という言われ方には、この記事は一言も答えられません。


「やめとけ」の中身は、だいたい5つです

#言われていること数値との関係
給料が仕事量に見合わない答えられない
拘束が長く、不規則答えられない
斜陽産業で、先がない答えられない
やりがいはあるが、続かない合っている
クリエイティブ職と同じようなもの違う

④ 「やりがいはあるが、続かない」——合っています

ここは、はっきり数値が出ます。

job tag には、その仕事をしている人が何を大事にしているかのデータも入っています。

マスコミ・放送・出版の「達成感」は 4.00 で、比較した37業界を全部並べても最も高い数値でした。

一方、「雇用や生活の安定性」は 2.68 で、37業界の下から3番目。 これより低いのは、クリエイティブと物流・ドライバーの2つだけです。

この2つの差 1.32 が、比較した37業界の中で最大でした。 2番目はクリエイティブの 1.28、3番目は美容・理容の 1.04 です。

「やりがい搾取」という言い方が指しているのは、たぶんこの形です。

ただし、読み方を1つ間違えないほうがいい。

これは「やりがいを感じている人が危ない」という話ではありません。 手応えが強く出る業界と、居場所が安定する業界が、別だという話です。 個人の資質ではなく、業界の並びとして出ています。

だから「続けられるかどうか」を、気持ちで決めないほうがいい。 決めるのは、どの条件が揃えば続けられるかのほうです。

もう1つ、同じ方向を指す数値があります。 「私生活との両立」は 2.89 で、37業界の下から2番目でした(建設・施工管理と同じ値です)。これは重視している度合いであって、実際の労働時間ではありません。


⑤ 「クリエイティブ職と同じようなもの」——違います

同じデータで37業界の距離を測ると、マスコミ・放送・出版にいちばん近いのはクリエイティブで、0.467 でした。 隣であること自体は、そのとおりです。

分かれるのは、人と関わる量のほうです。

マスコミ・放送・出版の「人と関わる向き方」は 3.78。クリエイティブより 0.37 高い。 取材する、出演する、現場で人を動かす——作る前と作ったあとに、人と話す時間がまとまって入ります。

「一人で作りたいからこちらへ」という移り方が、いちばん外れます。 方向が逆です。

逆に、共通しているところもはっきりしています。 決まった手順を正確に回す向き方は、マスコミ・放送・出版が 2.87 で37業界の下から2番目、クリエイティブが 2.91 で3番目。 どちらも、前回と同じやり方が通じない側の業界です。

そして、安定の弱さも共通です。 クリエイティブの「雇用や生活の安定性」は37業界で最も低い数値でした。

つまり、この2つは「どちらを選ぶか」で分かれる関係ではありません。 人に会う量で分かれます。


「やめとけ」が当たる人と、当たらない人

当たりやすいのは、こういう人です。

  • 居続けられることを、いま最優先に置いている人。 雇用や生活の安定性 2.68 は37業界で下から3番目で、隣の業界に移っても上がりません
  • 決まった手順を正確に回したい人。 その向き方 2.87 は37業界で下から2番目です
  • 一人で作る時間を最大にしたい人。 人と関わる向き方はクリエイティブより高く出ます

当たらないのは、こういう人です。

  • 終わった瞬間の手応えを、報酬の一部として数えられる人
  • 段取りが決まっていない状態から始めることを、面倒ではなく前提だと思える人
  • 人に会って引き出すところまでを、自分の仕事だと思える人

まとめ

  • このデータでは、給与・労働時間・業界の規模・求人の増減は答えられない
  • 「やりがいはあるが続かない」は合っている。 達成感 4.00 は37業界で最も高く、雇用や生活の安定性 2.68 は下から3番目
  • その差 1.32 は37業界で最大。 2番目はクリエイティブの 1.28 で、この落差は業界の形として出ている
  • 「クリエイティブ職と同じようなもの」は違う。 距離 0.467 で隣ではあるが、人と関わる向き方が 0.37 離れる
  • 共通しているのは、手順が決まらないことと、安定の弱さ

決めるべきなのは、「やめとけ」が正しいかどうかではありません。消耗している理由が、作る内容の側にあるのか、続ける条件の側にあるのかです。


関連ページ


この記事の根拠

数値が高いほど、その方向への興味が強いことを示します。

業界平均(職業興味・RIASEC)

業界現実的研究的芸術的社会的企業的慣習的
マスコミ・放送・出版3.473.473.703.783.432.87
クリエイティブ3.583.403.933.413.332.91
美容・理容3.443.433.604.093.103.06
教育3.193.353.203.923.303.16
マーケティング3.073.433.223.443.593.09
コンサル2.893.192.653.493.632.69
IT・エンジニア3.453.422.753.153.172.93
物流・ドライバー3.182.612.402.872.543.20

太字は、比較した37業界の中での最高・最低です。芸術的が 3.5 を超えるのは3業界だけ(クリエイティブ 3.93 / マスコミ・放送・出版 3.70 / 美容・理容 3.60)です。

慣習的の順位(分母は37業界):最も低いのはコンサル 2.69、マスコミ・放送・出版 2.87 が下から2番目、クリエイティブ 2.91 が3番目、IT・エンジニア 2.93 が4番目です。

仕事価値観(マスコミ・放送・出版・11項目)

項目
専門性が積み上がること4.05
達成感4.00
自己成長3.80
自律性3.76
対人関係3.39
社会的認知3.15
人の役に立つこと3.10
労働安全3.07
私生活との両立2.89
報酬2.76
雇用や生活の安定性2.68

達成感の順位(分母は37業界)マスコミ・放送・出版 4.00 が最も高く、2番目が美容・理容 3.95、3番目がクリエイティブ 3.94、4番目が士業 3.90 です。最も低いのは物流・ドライバー 2.79 で、幅は 1.21 です。

雇用や生活の安定性の順位(分母は37業界):最も低いのはクリエイティブ 2.66、2番目が物流・ドライバー 2.67、3番目がマスコミ・放送・出版 2.68 です。最も高いのは警察・消防・自衛隊 4.09 で、幅は 1.43 です。

達成感と雇用や生活の安定性の開き(分母は37業界)マスコミ・放送・出版の 1.32 が最も大きい。 2番目はクリエイティブ 1.28、3番目は美容・理容 1.04、4番目はホテル・観光・ブライダル 0.91 です。

私生活との両立(分母は37業界):最も低いのは警察・消防・自衛隊 2.82、マスコミ・放送・出版 2.89 は建設・施工管理 2.89 と並んで下から2番目です。この項目は「その仕事をしている人が私生活との両立をどれだけ重視しているか」であって、実際の労働時間ではありません。

業界間の距離:6領域の値をそのままユークリッド距離で算出したものです。上の表の数値から再現できます。

組み合わせ距離
金融 ↔ 法律・会計(弁護士・会計士)(37業界666組で最短)0.227
マスコミ・放送・出版 ↔ クリエイティブ0.467
マスコミ・放送・出版 ↔ 美容・理容0.504
マスコミ・放送・出版 ↔ 教育0.681
マスコミ・放送・出版 ↔ マーケティング0.763

マスコミ・放送・出版に含めた職業:新聞記者/雑誌記者/図書編集者/テレビ・ラジオ放送技術者/録音エンジニア/アナウンサー/放送ディレクター/舞台美術スタッフ/舞台照明スタッフの9職業の平均です。

このデータに含まれていないもの:給与・労働時間や拘束・業界の規模やその増減・求人数・入社の難易度。本文で「答えられない」と書いた項目は、すべてこれに当たります。職業ごとの数値は、この業界についてはまだ公表していません。

出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」簡易版数値系ダウンロードデータ ver.7.00(最終更新 2026年2月10日/制作・著作:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)