「ノルマに追われる生活を、あと何年やるのか」 「向いていないのか、この会社が合わないのかが分からない」 「営業しかやってこなかった、と思っている」
辞めた人の話ばかり出てきて、判断材料にならなかった。 そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
「やめとけ」は、雑な言葉です。 中身が5つくらい混ざっていて、そのうち2つは、このデータでは答えられません。
先に、分けます。
最初に——このデータで答えられないこと
この記事が使うのは、厚生労働省の「job tag」に入っている職業別の調査データです。 実際にその仕事をしている人が、どんな方向に興味を持っているかと、何を大事にしているかが入っています。
逆にいうと、次のことは測っていません。
- ノルマの重さ
- 精神的な負荷
- 年収がいくらか
- 労働時間がどれくらいか
「営業はやめとけ」の理由で最も多いのは、この4つです。 そこは答えられないと、先に書いておきます。
「やめとけ」の中身は、だいたい5つです
| # | 言われていること | 数値との関係 |
|---|---|---|
| ① | ノルマがきつい | 答えられない |
| ② | 断られ続けるのが辛い | 答えられない。ただし言えることが1つある |
| ③ | 手元に何も残らない | 合っている |
| ④ | 人と話すのが好きなら向いてる | 違う。ここがいちばん外しやすい |
| ⑤ | どの営業も同じ | 違う。7職種で大きく割れる |
② 「断られ続けるのが辛い」——1つだけ言えること
辛さそのものは測れません。 ただ、辛さの意味が人によって違うことは、数値の側から言えます。
営業の「人を説得し動かすことへの向き方」は 3.57 で、17業界の中では高い層です。
これは「断られても平気」という意味ではありません。 相手が動くこと自体に手応えを感じる、という向き方が中心にあるという意味です。
この向き方が動機に無い場合、断られることは単なる消耗になります。 動機にある場合、次に何を変えるかという問いに変わります。
同じ出来事が、まったく違う意味になる。 ここが分かれ目です。
③ 「手元に何も残らない」——合っています
あまり語られませんが、これは数値と合っています。
営業の「手を動かして形にすることへの向き方」は 3.02。 17業界の中では下位の層です。IT・エンジニアや建設・施工管理とは 0.4 以上離れます。
成果物が自分の手元に残りません。 契約は残りますが、モノとしては何も無い。
「今日何をしたのか分からない」という感覚は、ここから来ます。 気のせいではありません。
手を動かして形が残ることに満足を感じる人にとって、これは構造的な不足です。 頑張っても埋まりません。
④ 「人と話すのが好きなら向いてる」——ここがいちばん外しやすい
これが、この記事でいちばん重要なところです。
人と関わる向き方がいちばん高いのは、営業ではありません。 医療・介護・保育(4.11)です。営業は 3.84 で5番目。
そして、この2つは人を説得し動かす向き方で 0.64 離れます。
- 医療・介護・保育 — 人と関わるが、売り込みは求められない
- 営業 — 人と関わり、そのうえで相手を動かす
好きなのが「話すこと」なのか「話して相手が動くこと」なのか。 営業が要求しているのは後者です。
この差は、疲れ方に出ます。 話すこと自体は苦にならないのに商談後にひどく消耗するなら、消耗しているのは会話ではなく、動かすことのほうです。
「人と関わる仕事が好きだから営業」は、この業界に入るときの最も外しやすい経路です。
⑤ 「どの営業も同じ」——違います
営業7職種の中で、人を動かす向き方は 0.75 割れます(広告営業 ↔ 保険営業)。
表現することへの向き方にいたっては 1.17(広告営業 ↔ MR)。
参考までに、17業界の平均で見た人を動かす向き方の幅は 1.24 です。 業界をまたぐ差の6割が、営業の中だけで起きています。
「営業が向いていない」と判断する前に、職種を変える余地があります。
- 押しが苦手 → 保険営業は7職種で人を動かす向き方が最も低い
- 説明で納得させたい → MRは人と関わる向き方 4.14 で、調べる向き方も7職種で最高
- 作るところからやりたい → 広告営業は表現への向き方が突出
「やめとけ」が当たる人と、当たらない人
当たりやすいのは、こういう人です。
- 手を動かして形が残らないと落ち着かない人。 現実的 3.02 は17業界の下位で、これは職種を変えても埋まりません
- 相手が動いたかどうかに、手応えを感じない人。 断られることが、ただの消耗になります
- 自分のペースで進めたい人。 相手の都合で予定が動き続けます
当たらないのは、こういう人です。
- 話が弾んだかではなく、決まったかどうかを気にしてしまう人
- 断られたあとに、次は何を変えるかへ気持ちが向く人
「やめとけ」と言っている人が間違っているわけではありません。 その人にとっては本当だった、というだけです。
まとめ
- このデータでは、ノルマ・精神的負荷・年収・労働時間は答えられない。 「やめとけ」の理由で最も多いのはそこ
- 「手元に何も残らない」は合っている。 手を動かす向き方 3.02 は17業界の下位
- 「人と話すのが好きなら向いてる」は違う。 医療とは社会的が近いのに、企業的で 0.64 離れる
- 「どの営業も同じ」も違う。 7職種で人を動かす向き方が 0.75、表現する向き方が 1.17 割れる
- 業界を辞める前に、職種を変える余地がある
決めるべきなのは、「やめとけ」が正しいかどうかではありません。合っていないのが営業なのか、いまの営業なのかです。
関連ページ
- 営業に向いてる人——7職種を4つの型に分けました
- 営業の転職エージェントの選び方——型が決まったあとの話
- 業界別の向き・不向き一覧——17業界を1枚の表で
この記事の根拠
数値が高いほど、その方向への興味が強いことを示します。
業界平均(職業興味・RIASEC)
| 業界 | 現実的 | 研究的 | 芸術的 | 社会的 | 企業的 | 慣習的 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 営業 | 3.02 | 2.97 | 2.58 | 3.84 | 3.57 | 3.20 |
| 医療・介護・保育 | 3.07 | 2.94 | 2.59 | 4.11 | 2.93 | 3.18 |
| IT・エンジニア | 3.45 | 3.42 | 2.75 | 3.15 | 3.17 | 2.93 |
| 建設・施工管理 | 3.58 | 3.13 | 2.76 | 3.46 | 3.36 | 3.14 |
営業の職業別
| 職業 | 現実的 | 研究的 | 芸術的 | 社会的 | 企業的 | 慣習的 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 広告営業 | 3.03 | 3.11 | 3.44 | 3.98 | 3.97 | 3.00 |
| 医薬情報担当者(MR) | 2.76 | 3.32 | 2.27 | 4.14 | 3.77 | 3.33 |
| 商社営業 | 3.36 | 2.97 | 2.30 | 3.66 | 3.60 | 3.18 |
| 住宅・不動産営業 | 2.71 | 2.55 | 2.39 | 4.01 | 3.52 | 3.33 |
| 自動車営業 | 3.44 | 3.07 | 2.55 | 3.95 | 3.47 | 3.15 |
| 銀行・信用金庫渉外担当 | 2.96 | 2.80 | 2.43 | 3.71 | 3.43 | 3.21 |
| 保険営業(生命保険、損害保険) | 2.91 | 2.98 | 2.67 | 3.46 | 3.22 | 3.18 |
太字は営業7職種の中での最大・最小であって、17業界での順位ではありません。
比較に使った17業界の幅:人を説得し動かすことは 管理部門(課長級)3.78 ←→ 物流・ドライバー 2.54 で 1.24。
このデータに含まれていないもの:ノルマ・精神的負荷・年収・労働時間。本文で「答えられない」と書いた項目は、すべてこれに当たります。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」簡易版数値系ダウンロードデータ ver.7.00(最終更新 2026年2月10日/制作・著作:独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
